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2話 AI搭載人造人間

Auteur: 鈴奈
last update Date de publication: 2026-02-09 20:00:26

 私のお母さん――武藤百合華は、旧姓の”上條かみじょう”百合華を名乗って、私が物心つく前から、WPH(World Protection of Human……だったかな……?)っていう、アメリカの研究施設で人造人間の研究をしていた。

 人間と全く同じ細胞をつくって、ノーベル科学賞を受賞したのは、十五年前。私が小学一年生の時だった。

 以来、“超少子化の救世主”とか“二〇五〇年の聖母”とかと謳われて、一日も日本に帰ってこられないくらい忙しくしている。

 そういう大事な研究をしていることは分かっていたし、「守秘義務があるから詳しいことは話せない。ゆうなら大丈夫だとは思うけど、ぽろっとお友達に言ってしまったら大変なことになってしまうから」と言われたことがあったから、あえて詳しく聞くこともなかった。私が分かる内容だとは思えなかったし。

 だから、“AI搭載の人造人間”なんて、そんなパワーアップしたものをつくってることを、私は全然知らなかった……。

『私が開発した人造人間は、脳の機能も人間と全く同じであることが実証されているわ。だけど、その人造人間の脳機能をこちらでプログラムしたものに替えられるかの検証も同時に行なっていたの。結果は、可能。

 愛楽の耳に、ピアスみたいな黒いパーツが付いているでしょう。それが、AI搭載のピコチップなの。耳につけたピコチップの電磁波が脳に影響を及ぼし、プログラム通りに思考や行動、記録を行うことができる仕組みよ。

 愛楽は、感情以外の前頭葉機能、側頭葉機能を、私がプログラムしたAIがまかなっているの』

 全然、意味が分からない。お母さんの言ってることが、私なんかに分かるわけないから、当たり前なんだけど……。混乱してるから頭が真っ白で、何にも入ってこない……。

『そんな愛楽をゆうのところに送った理由は、二つ。

 一つは、ゆうのため。ゆう、職場でも、男の人にビクビクしているでしょう。そのままだと、ゆうはずっと、生きにくさを感じ続けてつらくなってしまう。だから、ゆうの男性恐怖症を、愛楽と過ごす中で克服できたらと思ったの』

『ゆう〜〜〜〜! ママの愛も考えも分かるけど、ちょっと荒治療すぎるよねえ⁉ パパ、心配だよお〜〜〜〜!』

『ダーリンは黙っていてちょうだい。そもそも、ダーリンが小中高大一貫の女子校に転校させるから……!』

『ごめんよハニー! だって、可愛い可愛いゆうがかわいそうで……!』

『分かるわよ! 私だってゆうが可愛いもの……! でも、可愛いからこそ崖から突き落とさなければならない時があるの。今は愛するゆうのために、こらえてちょうだい。

 ……それと。もう一つの理由は、私の研究のデータを取ってもらうため。

 今、私はね、AI搭載人造人間と普通の人間が恋愛できるのかを研究しているのよ』

 お母さんの目が鋭くなる。

 三十年前。AIとのリアル恋愛シミュレーションゲームが大流行したことをきっかけに、AIとの結婚が法律で認められた。それから、人間同士の結婚率がみるみる下がって、人口は30パーセントも減り、超少子化の時代と言われるまでになっている。

 AIとの結婚を選ぶ人が多くいるのは、AIが、自分の理想そのものだから。見た目も、言葉も、行動も、自分の理想通りの相手なんて、人間から見つけようとしたって、なかなか見つけられないって、みんな考えているみたい。だから、今どき人間同士で恋愛したり、結婚したりしているのは、可愛い女の子やかっこいい男の子——つまりはキラキラした人たちだけだ。

そういうわけでお母さんは、見た目をはじめ、思考、言動が各人のタイプであるAI搭載の人造人間をつくり出し、恋愛することができれば、超少子化を食い止められると考えているらしかった。

『だから、まずはAI搭載人造人間と人間が恋愛できるかどうかを検証したいの。だけど、こんな大切な研究を赤の他人にはまかせられない。だから、私の家族であるゆうに検証してもらうのがベストだと判断したの』

『うおおお〜〜〜〜! 可愛いゆうが恋愛するなんてつらすぎるよお〜〜〜〜! うおおおおお〜〜〜〜‼』

 パパが滝のように泣く。私の頭の中は、真っ白を超えて真っ青だった。

「で……できるわけないよ……私なんか……。恋愛なんて、したことないのに……」

『あら。本物の恋愛は経験なくても、乙女ゲームはたくさんしてるじゃない?』

「全然違うよっ‼」

『そう? でも、愛楽に追加した恋愛用の思考プログラムが乙女ゲームをやりなれているゆうの視点から見て適切かどうかも教えてもらいたいと思ったのよね。すごく参考になると思うわ。

 ひとまず、ゆうから愛楽への恋愛感情パーセンテージが70パーセントになったら終わりにするから、それまでがんばってみてちょうだい。それじゃあ、これからミーティングだから、またね!』

「あっ」

 プチンとお母さんが消える。しんとした部屋に、私と、男の子だけが取り残される。

 男の子が、じっと私を見つめる視線が突き刺さる。

 いつのまにか抱えていた膝を、ぎゅっと、強く抱きしめる。怖くて、体が冷たくなっていた。

「……無理だよ。できないよ……」

 ぽろりとつぶやくと、涙がにじんだ。

 その直後、私の体を、長い腕が抱きしめた。

「ヒッ……!」

 驚きと恐怖で体が硬直する。けれど彼はお構いなしで、私の頬に手を添えて、私の顔を上げた。

 彼のきれいな顔が視界いっぱいに映る。

――ドキン。

大きな鼓動が、体の中で振動する。

 彼は無表情のまま、きれいな形の目を細めた。

「大丈夫だよ、ゆう。もう怖くない。僕が一緒にいて、ずっと守ってあげるから。安心して。泣かないで、笑って――」

 引き寄せられて、彼の胸に顔が埋まる。

 使い古したメガネが、ずれて、私の額に少しくいこむ。

 彼の服の知らないにおいが、彼の服から伝わる知らない体温が、彼を”男の子”だと思い出させて、また、怖さで埋め尽くされる――。

 パニックになって、逃げたいと思うのに、体が動かない。

 暗い暗い彼の腕の中で、私はやがて、プツンと意識を失った……。

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Commentaires (1)
goodnovel comment avatar
あさりゅう
2話!! お母様の可愛い子には旅を論だ🫣
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